お風呂の湯気のなかで、肌をそっと撫でながら「今日は、なんだかいつもより調子がいいかも」と感じたこと、ありますか?
それは、単なる気のせいじゃない。お湯の温度、成分、香り――すべてが、知らず知らずのうちに心と肌のリズムを整えてくれているのです。
肌は、私たちの「内側の状態」を一番素直に映す場所。だからこそ、調子が悪くなると、スキンケアを変えたり、食生活を見直したり、いろんなことを頑張ってしまう。
でもね、もしその肌荒れの原因が「菌のバランスの乱れ」だったとしたら――。
実は、皮膚には“常在菌”という小さな共生者たちがいて、健やかさを保つために日々働いてくれているんです。ところが、そのバランスが崩れると、マラセチア菌やアクネ菌が増えすぎたり、逆に大切な善玉菌が減ったりして、肌トラブルの引き金に。
そんなとき、頼れるのが「お湯のちから」。温泉には、皮膚の菌バランスやバリア機能をやさしく整えてくれる泉質があり、古くから“湯治”として受け継がれてきました。
今回は、皮膚疾患別におすすめの泉質と、自宅でできる温泉成分スキンケアについて丁寧にご紹介します。
肌の痛みに寄り添うように、静かに、やさしく効いていく。そんな“おうち湯治”の知恵を、あなたの暮らしにそっと忍ばせてみませんか?
皮膚疾患別におすすめの泉質とは?
皮膚の悩みは、肌のバリア機能だけでなく常在菌のバランスとも深く関わっています。温泉の成分がそのバランスをやさしく整えてくれることもあるのです。
皮膚症状・悩み | 効果が期待される泉質 | 理由・特徴 |
脂漏性皮膚炎/マラセチア毛包炎 | 酸性泉・明礬泉・硫黄泉 | 殺菌・収れん・皮脂抑制作用があり、マラセチア菌の増殖を抑える |
ニキビ・思春期肌 | 硫黄泉・炭酸水素塩泉 | 皮脂分泌を整え、毛穴詰まりを防止 |
アトピー性皮膚炎・かゆみ | 塩化物泉・炭酸水素塩泉 | 皮膚の保護膜を形成、かゆみ軽減 |
乾燥肌・湿疹 | 単純温泉・炭酸水素塩泉 | 低刺激で保湿力あり、バリア機能の回復に |
とびひ・感染性皮膚炎 | 酸性泉・硫黄泉 | 殺菌作用が強く、細菌性炎症を抑制 |
脂漏性皮膚炎・マラセチア毛包炎に効果的な泉質
皮脂の多い部位に発生しやすい脂漏性皮膚炎やマラセチア毛包炎は、マラセチア属の常在真菌が原因の一つです。これらの症状には、殺菌力の高い酸性泉や、皮脂分泌を抑える明礬泉・硫黄泉が適しています。
とくに草津温泉のような酸性泉は、マラセチア菌の繁殖を防ぎ、炎症の緩和に効果が期待されます。
ニキビ・思春期肌におすすめの泉質
硫黄泉には皮脂を分解し、毛穴の中のアクネ菌を抑制する働きがあります。また、炭酸水素塩泉は古い角質や毛穴汚れをやさしく落とし、清潔な肌環境を維持するのに役立ちます。
特に思春期の皮脂分泌が盛んな時期や、大人ニキビができやすいフェイスラインには、この2種の泉質がバランスよく働きます。
アトピー性皮膚炎・かゆみに向いている泉質
アトピーや慢性的なかゆみのある肌は、乾燥とバリア機能の低下が共通した問題です。塩化物泉は肌表面に塩の膜を作って水分の蒸発を防ぎ、炭酸水素塩泉は肌の炎症を鎮めてかゆみを和らげてくれます。
特に敏感肌の方でも使いやすい低刺激性である点が魅力です。
乾燥肌・湿疹にやさしい泉質
単純温泉はミネラルの含有量が少なく、赤ちゃんからお年寄りまで幅広く使える“お湯のやさしさ”が特徴です。また、炭酸水素塩泉は石鹸効果がありながらもしっとりとした湯上がりになるため、乾燥肌・軽度の湿疹に適しています。
冬の乾燥がつらい時期や、肌がゆらいでいる時のケアに向いています。
とびひ・感染性皮膚炎に適した泉質
細菌によって広がるとびひやその他感染性皮膚炎には、強力な殺菌作用を持つ酸性泉と、硫黄泉が有効です。特に温泉地では医療機関と連携した湯治が行われることもあります。
ただし、肌への刺激が強いため、使用頻度や入浴時間には注意が必要です。
自宅でできる温泉成分スキンケア
「温泉に行きたいけれど、なかなか時間が取れない…」そんな日常の中でも、自宅で温泉の恵みを感じるスキンケアは可能です。温泉成分を取り入れたスキンケアアイテムや入浴法を活用することで、肌をやさしく整えることができます。
温泉水配合のスキンケアアイテムを取り入れる
温泉水を配合した化粧水や美容液は、ミネラル豊富で保湿力が高く、肌への刺激が少ないのが特徴です。特に、敏感肌や乾燥肌の方にはおすすめです。
例えば、別府温泉の湯を使用した化粧水は、保湿力に優れ、肌をしっとりと整える効果があります。別府温泉 湯あがり本舗
温泉成分を含む入浴剤で全身ケア
自宅のバスタイムに、温泉成分を含む入浴剤を取り入れることで、全身のスキンケアが可能です。硫酸塩泉や炭酸水素塩泉を再現した入浴剤は、肌の保湿や角質ケアに効果的です。クエスク スキンクリニック
温泉水スプレーで手軽に保湿
温泉水をスプレータイプで使用することで、外出先やオフィスでも手軽に保湿ができます。肌の乾燥が気になるときや、リフレッシュしたいときにおすすめです。温泉宅配
温泉水を使用したフェイスパック
温泉水を使用したフェイスパックは、肌に潤いを与え、キメを整える効果があります。特に、乾燥が気になる季節や肌の調子が不安定なときに取り入れると良いでしょう。
注意点:温泉水の保存と使用方法
温泉水をそのまま使用する場合、保存期間が短く、品質が変化しやすいため注意が必要です。できるだけ早めに使い切ることを心がけましょう。また、肌に合わない場合もあるため、パッチテストを行うことをおすすめします。RIMEDO
温泉成分スキンケアの注意点とポイント
温泉の恵みを日常のスキンケアに取り入れることは、肌にとって多くのメリットがあります。しかし、正しい知識と方法を持って行わなければ、期待する効果が得られないどころか、肌トラブルの原因となることも。ここでは、温泉成分を活用したスキンケアの注意点とポイントを詳しくご紹介します。
1. 温泉水の保存と使用方法に注意
温泉水をそのままスキンケアに使用する場合、保存期間が短く、品質が変化しやすいため注意が必要です。最大でも3日以内に使い切ることをおすすめします。また、肌に合わない場合もあるため、パッチテストを行うことが大切です。RIMEDO
2. 入浴後の保湿ケアは必須
温泉に入ると肌がしっとりしますが、湯上がりは一気に水分が蒸発してしまいます。そのため、すぐに顔と体を保湿するのが美肌をつくるポイントです。Dr.Recella
3. 長湯は避け、適切な入浴時間を守る
長時間の入浴は、皮膚表面の皮脂やセラミドが流失し、肌の乾燥を招く原因となります。40℃前後の湯温で、15分程度の入浴を心がけましょう。湯楽の里
4. ピーリングやスクラブは控える
温泉には角質層を溶かす作用があるため、入浴後にピーリングやスクラブ洗顔、酵素洗顔、拭き取り化粧水、収れん化粧水の使用は控えましょう。ナールス
5. 肌に合ったスキンケアアイテムを選ぶ
温泉成分を含むスキンケアアイテムを選ぶ際は、自分の肌質や悩みに合ったものを選ぶことが大切です。敏感肌の方は、アルコールフリーや無香料の製品を選ぶと良いでしょう。
この記事のまとめ
- 皮膚のトラブルには、疾患ごとに合った「泉質」が存在する
- 酸性泉・硫黄泉・明礬泉は、皮膚常在菌のバランス調整や殺菌に有効
- 炭酸水素塩泉や塩化物泉は、保湿やバリア機能の回復に役立つ
- 自宅でも、ミョウバン水・重曹風呂・入浴剤などで温泉スキンケアが実践できる
- 温泉スキンケアには、正しい使用法とアフターケア(保湿)が不可欠
肌の悩みに答えを探して、スキンケアアイテムを渡り歩いた日々もあったけれど。
実は、答えはもっとやさしく、自然の中にあったのかもしれません。
温泉は、古くから人を癒してきた場所。そして今もなお、肌の奥に触れ、静かに整えてくれる“水の薬箱”です。
もしあなたの肌が、言葉にならない疲れを抱えていたなら――どうか今日だけは、お湯に身をゆだねてみてください。
肌も、心も、少しずつやわらいでいくのを、感じられるはずだから。
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