ニキビ、かゆみ、湿疹の陰に常在菌？肌バランスを整える新常識

最近、肌の調子がなんだか不安定。ニキビ、かゆみ、湿疹…。

そんなとき、「スキンケアが合ってないのかな」と思うのは自然なこと。でも、もう少しだけ深く考えてみてほしい。

もしかするとそれは、肌の上で生きている“常在菌”たちの声かもしれないから。

私たちの肌には、目に見えない数えきれないほどの菌たちが存在しています。彼らは「肌を荒らす敵」ではなく、むしろ「肌を守る味方」であることの方が多い。

ただし、そのバランスが崩れたとき、私たちの肌は不調というかたちでSOSを発信してくるのです。

この記事では、そんな皮膚常在菌の正体について、ひとつひとつ丁寧に紐解いていきます。

さらに、近年注目されている「温泉成分が常在菌のバランスに与える効果」についてもご紹介。

菌と共に生きるという視点を持つことで、あなたの肌との向き合い方が、少し変わるかもしれません。

この記事を読むとわかること

皮膚の“共生者”たち｜常在菌の世界へようこそ

私たちの皮膚の表面には、目には見えないけれど確かにそこにいる“共生者”が存在します。それが、皮膚常在菌です。

表皮や毛穴、汗腺、皮脂腺の中には、数百種類以上の菌が暮らしていて、その数は1兆個以上とも言われています。

彼らの仕事は、皮膚のバリア機能を守ること。悪い菌の侵入を防いだり、皮膚を弱酸性に保ったり、さらには免疫機能に働きかけることもあります。

つまり、肌を健康に保つうえで、常在菌の存在は欠かせないのです。

しかし、このバランスが崩れると、アクネ菌や黄色ブドウ球菌、マラセチア菌といった菌が“暴走”し、ニキビや湿疹、かゆみなど、さまざまな肌トラブルの引き金になります。

私たちの肌の調子は、日々この菌たちとの“対話”のうえに成り立っているのかもしれません。

常在菌①：表皮ブドウ球菌｜肌のガードマン

どんな菌？

表皮ブドウ球菌（Staphylococcus epidermidis）は、健康な肌に最も多く存在する常在菌のひとつ。肌に優しい“善玉菌”として知られています。

この菌は、乾燥しやすい肌の表面でも生きられるほどの適応力を持ち、赤ちゃんから高齢者まで、誰の肌にも当たり前のように存在しています。

表皮をどう守ってくれているのか

表皮ブドウ球菌の最大の特徴は、「外敵から肌を守る力」。

• 皮脂や汗を分解し、肌を弱酸性に保つことで、悪玉菌が繁殖しづらい環境をつくる
• 抗菌ペプチドという天然の抗菌物質を分泌し、有害な菌を排除する
• 皮膚の免疫をサポートし、炎症を抑える働きもある

つまり、表皮ブドウ球菌は肌の“ガードマン”として、常に見えないところで戦ってくれているのです。

減ってしまうとどうなる？

この善玉菌が減ってしまうと、肌は急に無防備になります。

たとえば、黄色ブドウ球菌のような悪玉菌が急増し、湿疹・かゆみ・炎症といった肌トラブルが発生しやすくなります。

減少の原因には以下のようなものがあります：

• アルコール消毒のしすぎ
• 洗浄力の強すぎる洗顔料やボディソープの使用
• 乾燥によるバリア機能の低下

表皮ブドウ球菌を守るには、肌を“洗いすぎない”ことと、しっかりと保湿することが何より大切です。

常在菌②：アクネ菌｜善にも悪にもなる“二面性”の持ち主

どんな菌？

アクネ菌（Cutibacterium acnes）は、皮脂腺が活発な部位、特に顔や背中の毛穴に多く存在する常在菌です。

その名の通り「ニキビの原因菌」として有名ですが、実は健やかな肌を保つためにも欠かせない存在。

アクネ菌は、皮脂をエサにして生きているため、皮脂分泌の多い10代〜30代に特に多く見られます。

バランスが保たれているときの働き

適度な数のアクネ菌は、以下のような「良い働き」をしてくれます：

• 皮脂を分解し、保湿因子を生成することで肌の潤いを守る
• 皮脂を弱酸性に保ち、悪玉菌の増殖を抑制

つまり、アクネ菌は肌のうるおいを守る守護者でもあるのです。

増えすぎたときのリスク

ところが、皮脂が過剰になったり、毛穴が詰まったりすると、アクネ菌が一気に繁殖。

その際に刺激物質（炎症性脂肪酸）を分泌し、毛穴周囲で炎症を起こしてニキビへと進行します。

特に以下のような条件でアクネ菌は“暴れやすく”なります：

• ホルモンバランスの乱れ（思春期・生理前など）
• 油分の多いスキンケアやファンデーション
• 睡眠不足やストレスによる免疫低下

大切なのは、アクネ菌を殺菌するのではなく“整える”こと。過度な殺菌は肌のバリアを壊し、逆効果になることもあるのです。

常在菌③：黄色ブドウ球菌｜本来は悪玉？でも皮膚にもいる理由

どんな菌？

黄色ブドウ球菌（Staphylococcus aureus）は、通常は悪玉菌として知られる存在です。

ただし、実は健康な皮膚にも少数ながら存在しており、完全に排除できる菌ではありません。

鼻の中や手指、わきの下、湿った皮膚環境に多く生息し、環境が整うと急速に増殖します。

健常な肌にもいるけれど…

通常は、表皮ブドウ球菌や皮膚の免疫によってコントロールされており、悪さをすることはありません。

しかし、バリア機能が低下した肌ではこの菌が急増し、トラブルを引き起こすリスクが高まります。

アトピーや湿疹との関係

黄色ブドウ球菌が肌で増殖すると、以下のような症状が起こりやすくなります：

• アトピー性皮膚炎：菌が出す毒素がかゆみや炎症を引き起こす
• 湿疹・かぶれ：バリアのない部分に菌が侵入し、二次感染を招く
• とびひ：黄色ブドウ球菌による感染症の代表例

特にアトピーの肌では、この菌の割合が高い傾向にあり、症状の悪化と深く関係しています。

そのため、この菌だけを抑えるスキンケアではなく、全体のバランスを保つアプローチが重要です。

常在菌④：マラセチア属真菌｜カビの一種なのに肌に住んでいる

どんな菌？

マラセチア属真菌（Malassezia）は、酵母の一種であり“真菌＝カビ”の仲間です。

それにもかかわらず、健常な肌にも自然に存在しており、特に皮脂分泌の多い部位（頭皮、顔、胸元など）に多く生息しています。

皮脂を好んで栄養源にしており、人間の皮脂と共に“生きている”存在です。

脂漏性皮膚炎との関係性

マラセチアは、バランスが取れていれば無害ですが、皮脂の分泌が多くなると急激に繁殖。

この時、皮脂を分解して生成する物質が肌に刺激を与え、脂漏性皮膚炎やマラセチア毛包炎を引き起こします。

特に以下のようなときに増殖しやすくなります：

• 夏場など高温多湿の季節
• ストレスや睡眠不足で皮脂分泌が増えるとき
• 洗浄不足で皮脂が溜まりやすい環境

増えすぎないためのポイント

マラセチアのコントロールには、皮脂量のコントロールと、真菌に有効な成分を含むケアが有効です。

たとえば、酸性泉や明礬泉（ミョウバン泉）などの温泉成分が、マラセチアの繁殖抑制に効果的という研究もあります。

また、市販薬や医療用シャンプーの併用も有効なことがあります。

重要なのは、“菌をゼロにしよう”とせず、肌のうるおいやバリアを保ちながら穏やかに整える姿勢です。

温泉の成分は常在菌にどう作用する？

酸性泉・硫黄泉・明礬泉の抗菌作用とは

昔から「傷には温泉」と言われてきたように、温泉の成分には天然の抗菌・抗炎症作用をもつものがあります。

とくに注目されているのが、次のような泉質です：

• 酸性泉：pH2〜3の強酸性で、雑菌を殺菌・洗浄する作用あり
• 硫黄泉：皮脂分泌を抑え、ニキビ・脂漏性皮膚炎に効果的
• 明礬泉（含アルミニウム泉）：収れん・殺菌・かゆみの軽減に有効

これらの泉質は、マラセチア属真菌や黄色ブドウ球菌の増殖を抑えるという研究報告もあり、皮膚の常在菌バランスを整える可能性があると注目されています。

増えすぎた菌を“やさしく整える”自然の力

ただし、温泉の成分は“すべてを殺菌する”のではなく、肌にやさしくアプローチしてくれる自然の恵み。

たとえば、酸性泉に含まれるメタケイ酸は、保湿・ターンオーバー促進の働きもあり、善玉菌にやさしく、悪玉菌を抑えるというバランス感覚があるのです。

これはまさに、「菌と共に生きる」ことを体感できる処方とも言えるでしょう。

自宅で試せる温泉ケアの方法

毎日温泉地へ行くのは難しいけれど、温泉成分入りの入浴剤や温泉の素を使えば、自宅でも温泉スキンケアは可能です。

ポイントは以下のとおり：

• 「硫黄」「明礬」「アルミニウム」などの記載がある入浴剤を選ぶ
• ぬるめのお湯（38〜40℃）でゆったり10〜15分浸かる
• 入浴後は保湿ケアを忘れずに：肌のバリアを守るためにも必須

“湯治”という言葉が今なお愛されるのは、お湯の中に、肌を調える力があるからなのかもしれません。

菌バランスを守る5つのスキンケア習慣

常在菌たちは、私たちの肌の上で静かに、でも確かに生きています。肌の健康を守るには、“敵視”するのではなく“共に生きる”視点が必要です。

ここでは、日常でできる「菌バランスを守るための5つの習慣」をご紹介します。

• やさしく洗う、洗いすぎない
  ─ 強い洗顔料やゴシゴシ洗いは、善玉菌まで奪ってしまいます。ぬるま湯と低刺激のクレンジングを。
• 肌のうるおいを保つ
  ─ 善玉菌はうるおいを好みます。保湿を怠ると、乾燥によってバリアが壊れ、悪玉菌の増殖を招きます。
• pHバランスを整えるアイテム選び
  ─ 肌は弱酸性。アルカリ性の洗浄剤ではなく、肌のpHに近い製品を使うことで、常在菌にやさしい環境に。
• ストレス・睡眠の見直し
  ─ 生活リズムの乱れは、皮脂のバランスや免疫に影響を及ぼし、菌の構成にまで変化をもたらします。
• 善玉菌を育てる“発酵スキンケア”の活用
  ─ ヨーグルトや乳酸菌由来の化粧品は、表皮ブドウ球菌などをサポート。肌に優しい環境を整える選択肢として◎。

どれも難しいことではありません。日々のスキンケアに“菌の声”を添えるだけで、肌との向き合い方が少し変わるはずです。

この記事のまとめ

肌に不調が現れたとき、私たちはつい「何を塗ればいいか」「何をやめればいいか」に目が向きがちです。

でも、ほんの少し立ち止まって、肌の上にいる小さな生き物たちの声に耳を澄ませてみてください。

表皮ブドウ球菌が、あなたの肌を今日も守ってくれていたかもしれない。

アクネ菌が、ちょっと居場所を間違えて暴れてしまったのかもしれない。

黄色ブドウ球菌やマラセチア菌が、あなたの肌の“すきま”につけこんできたのかもしれない。

大切なのは、菌を敵にしないこと。排除ではなく、共存。制御ではなく、調和。

そんなスキンケアの視点が、きっとあなた自身との向き合い方まで変えてくれるはずです。

「きれいになる」って、菌とも、肌とも、心とも仲良くなれることなのかもしれません。